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緊張感漂う陰湿なスポ根映画。 / フォックスキャッチャー

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2014年製作/135分/PG12/アメリ
原題:Foxcatcher
配給:ロングライド

 

【あらすじ】

実際に起きたある出来事をベースにした終始、ただならぬ不穏な緊張感が漂う、スポーツヒューマンサスペンス(?)ドラマ。

レスリングのオリンピック金メダリスト、マーク・シュルツの元に一本の電話が。

「デュポンさんが用事がある。プライベート機を手配するから、来て欲しい。用件はその時に本人から伝える」

と、自分なら絶対に無視する手前勝手な内容。電話をしてきたのはデュポンという人物で、彼は武器の製造で富をなした化学メーカーの御曹司。日本にもある会社らしい。

レスリングが好きで自分もやりたかったレスリングの選手をサポートしたい。という志でマークに練習設備と光熱費・家賃タダの豪邸を提供し、ふたりは次期オリンピックに向けて動き出すのだが…。

 

【感想】

実話ベースの骨太スポーツヒューマンドラマ。恥ずかしながら、この作品の存在もストーリーも全く知らなかった。調べたらアカデミー5部門ノミネート。

一切の予備知識を持たずに観た方が絶対に楽しめると感じる。だって、それを知ったらラストを知ることにもなるのだから。劇中漂う重苦しい雰囲気と、不安しか感じない人間関係。そしてラストの衝撃。なのでその辺のネットに書かれているあらすじや解説は読まない方がいいかもしれない。

物語の核となるのは3名。大富豪なのにその風格が全く感じられないジョン・デュポンをコメディ畑のスティーブ・カレルが。特殊メイクしまくり。劇中でみせる極度のマザコンぶりは観ていて滑稽。最初は愛国心とスポーツ愛に溢れた富豪のイメージだが、徐々にそれは崩れて行く。

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↑スティーブ・カレルの出演作で一番好きなのは、「ラブ・アゲイン」。

最近だと「30年目の同窓会」。ゼメキス監督の「マーヴィン」も意欲作。

デュポンにスカウトされる金メダリスト、マーク・シュルツを、筋肉マン、チャニング・テイタム。実力はあるのに兄貴と比較され人生の影道を歩いてきたスポーツバカ。最近彼の作品をよく観るのだが、アクションや明るいキャラクターがメインなイメージなので、こういうネクラで内向的な役が意外だった。

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同じく金メダリストにしてマークの兄、デビッドを「はじまりのうた」や超人ハルク役でお馴染みのマーク・ラファロが。最初、誰なのか分からなかった。弟のマークとは対照的で気さくで人当たりも良く、指導力もある人格はマークに卑屈な人生を歩ませる。が、デビッドは弟をとても可愛がっている。

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この3名を軸に物語を回して行く。

当時、レスリングはマイナーなスポーツだったようで、冒頭マークは小遣い稼ぎに学校で講演会を行うが、ネクラで話術も得意でない彼の講義は退屈そのもので、ウケも良くない。支払いの際に名前を「デビッド」と間違われる。「いや、デビッドは兄で、自分は弟です。金メダルも獲ってます」と要らない説明をする。ここで、彼がいつも兄の影になっていることがわかる。

デュポンは超絶大金持ちで、切手集めや野鳥に興味があるなど、なんら不自由のない生活を送っている文化人に見えるが、登場した時から何やら不安を感じさせる佇まい。話が進むとかなりのマザコンであることが判明、それを象徴するのがレスリングの練習場でのシーン。

レスリングを毛嫌いしていたオカンが、珍しく練習場を見学しに来ると、デュポンはすかさずコーチづらをし始める。当然、場はシラけ、母親も「こんなもんか」とその場を去る。やもすると、笑いを取れるシーンでもあるが、デュポンの心の傷は深まるばかり。

また、休日なのにマークの元を訪れたり。自分の私有内に住んでいるとはいえ、あんまり人のことを考えることができない人なのかな。という印象を持つ。

3人の中で、デビッドが一番まとも。言動は極めて正しい事を言ってるし、デュポンやマークにはない家族を持っているし、性格も明るい。信頼も厚い。二人からすれば、羨望たる存在。

そんな彼らが織りなすスポーツ映画。そしてあのラスト。なぜ、ああなってしまったのか。は劇中あまり語られてはおらず、観賞後に調べたけど分からずじまいだった。重い映画だけど、かなりの力作。