壊れかけてないエンタメRadio

引っ越しました。

エンタメ全般のごった煮放送。

ホラーの古典を現代風にアレンジ。/透明人間

f:id:miyabiyama2019:20200810094135j:plain
H・G・ウェルズが1897年に発表した小説『透明人間』を現代に置き換えて製作された「透明人間」を鑑賞。

 

【あらすじ】

天才科学者で富豪のエイドリアン(オリヴァー・ジャクソン=コーエン)の恋人セシリア(エリザベス・モス)は、彼に支配される毎日を送っていた。ある日、一緒に暮らす豪邸から逃げ出し、幼なじみのジェームズ(オルディス・ホッジ)の家に身を隠す。やがてエイドリアンの兄で財産を管理するトム(マイケル・ドーマン)から、彼がセシリアの逃亡にショックを受けて自殺したと告げられるが、彼女はそれを信じられなかった。(シネマトゥディより抜粋)

 

【感想】

ゲット・アウト」などのサスペンス映画で手腕を発揮したクリエイターが最新のVFXを駆使して現代風に再構築し「透明人間」を製作した。と聞けば楽しみにならずにはいられない。

「透明人間」で真っ先に思い出すのが2000年に製作されたポール・ヴァーホーベン監督による「インビジブル」。こちらは小学生の頃に「透明人間になったら、こんなことをしてみたい」という想いを見事に可視化してくれている。ヴァーホーベンらしい演出で、女性トイレを覗き見する、女性の体を触る。(笑)など、最初はタチの悪い悪戯だが、どんどんエスカレートしていって…。という分かり易いエンタメ色の強い快作。

f:id:miyabiyama2019:20200810094141j:plain

が、20年経った現在の透明人間は「インビジブル」の様な外的な暴力で主人公を支配するのではなく、精神的に追い詰めていくという陰湿な内容。「相手」は透明であることの性質を利用し、周りの人間の信用を失わせ、セシリアを社会的に孤立させていく。彼女が精神的に疲弊していく過程をエリザベス・モスが見事に演じている。

冒頭のクレジットから魅せてくれる。嵐の海に浮かぶ岩肌。波がザブザブ降りかかるのだが、そこにスタッフの名前が。波がかかっている間は文字が見えるが、波が引くと文字は消え、また次のスタッフの名前が…。と、コンセプトの「透明」を意識した演出が小気味いい。

カメラが断崖絶壁を登って行くと、豪邸が。そして主人公のセシリアがベッドで寝ている場面に切り替わる。が、彼女は眠っている訳ではなく、何やらただならぬ雰囲気。同じベッドで寝ている男性に気付かれぬよう、そっと抜け出し、豪邸からなんとかして脱出しようと試みる。と、のっけからハラハラドキドキの脱獄もの。傑作の予感を感じさせる。

話が進み、透明人間がいるのか? いないのか? と思わせるシーンはカメラアングルで恐怖を演出。そこにはセシリアしかいないのだが、カメラはそこにもう一人存在するかのような二人分の人物が収まるようなトリミング。特に何事も起きないのにカメラアングルだけで人をこんなにも怖がらせることができるのか。と、昔から使われていた手法なのかもしれないけど、今見ると逆に新鮮だったり。

そしてラストに向けて、セシリアは追い込まれ精神の不安定さはエスカレートして行くのだが、もう誰が犯人なのか? 実は別の人物だったのではないか? 自分の思考が信じられなくなってくるのだが、それはみてるこちら側も果たしてこの結末が正しかったのだろうか。と主人公と同じ猜疑心に陥る。

「透明人間」という題材を現代に置き換えるとSF映画ではなくサスペンススリラーになってしまう。また、DVを受ける女性という設定も相まって現代の女性が晒されているいろんな問題も浮き彫りにする。という眼から鱗な一本なのだった。